1−5 証券の分類

従来の証券の分類と、グレアムの提案する新たな分類法。
証券は習慣的に債券と株式に大別され、さらに株式は優先株普通株に分けられている。
証券の分類における基本的な基準は2つ。①債権者とパートナー(共同経営者)の立場に関する法律的な区別。②投資上の性質。債券は元利に対する一定の請求権を有し、大きな安全性があるのに対し、株式は大きなリスクをとりながらもその会社のオーナー権利を受けることができる、と一般には考えられている。
グレアムとしてはこの分類には反対。理由は以下の3点。


1.優先株普通株を一括した分類
優先株普通株を同じカテゴリに含めるべきではない。少なくとも投資という性質に関する限り、優先株は明らかに債券のカテゴリに分類されるべきだ。というのは、標準的な優先株確定利息と元本の安全性を目的に購入される。さらに、優先株保有者は自らをその会社のパートナーではなく、パートナーの利益に優先する請求権の保有者であると考えている。投資と期待の目的から見ると、これは債券保有者に似ている。


2.安全性と同一視される債券
伝統的に「債券形態」が証券の安全性と同一視されている。
投資家は債券という名称に騙され、元利の優勢請求権がある分、債券は損失に対して何か特別な保証があるかのように思っているが、これは間違い。
証券の安全性とは、債務者である当該発行会社の元利返済能力そのものであり、安全性の度合いはその能力によって100%決まる。資産や収益力のない企業の債券は、そうした企業の株式と同じく全く価値がない。ただ単に、株と比べて将来の利益の追求(リターン)を制限されているだけにすぎない。


3.名称だけではその証券の特徴がわからない
様々な証券を債券と株式(普通株優先株)に大別する分類法に反対する3つ目の理由は、その名称が証券の正確な特徴を現していないことである。
従来の標準的内容とは異なる変種の証券が続々と登場するようになったから。
例。収益社債転換社債、転換優先株ワラント付き社債優先株、参加的優先株、優先権付き普通株、無議決権普通株

  • それぞれの証券の標準的な特徴
    • 債券
      • 一定期日に、一定の利息を受け取る無条件の権利
      • 一定期日に一定の元本を償還される無条件の権利
      • 当該企業の資産や利益に対するそれ以上の請求権はなく、また議決権もない
    • 優先株
      • 普通株に優先して表示額の配当を受け取る権利(普通株無配の場合は、優先配当の有無は取締役会の決定に委ねられる)
      • 当該企業の解散に際して、普通株に優先して表示額の元本を受け取る権利
      • 普通株が持つ議決権はない
    • 普通株
      • 債券の返済と優先配当を差し引いた後の資産に対する比例的な分配権
      • 優先支払額を差し引いた後の利益に対する比例的な持分
      • 取締役の選任などの比例的な議決権


新しい分類法の提案
証券の購入者や保有者にとってそのリスクとリターンがどのようなものなのかをもとに分類すべき。3つの種類に証券を分類するよう提案する。
①確定利付き証券……優良な債権・優先株 = 投資適格の債券・優先株
②変動利付き上位証券 = 投機的な債券・優先株

  • A.利益が十分に保証された証券……優良な転換社債
  • B.利益が十分には保証されない証券……二流の債券・優先株

普通株の形態……普通株

各証券の特徴
①はその名称が何であろうと、将来的にもその元本価値の変動はきわめて小さいというのがその大きな特徴。この証券に対する保有者の主な関心は、元本の安全性にあり、投資の唯一の目的は確実なインカムゲインを得ることである。
確定利付証券に含まれるもの。

  1. 全ての普通社債と通常の価格で発行される有料優先株
  2. 優良な転換社債(転換製それ自体が投資の主な対象とはならないもの。類似の特徴を持つ参加的またはワラント付き上位証券についても同じ)
  3. 投資適格の保証付き普通株
  4. 優良優先株の権利を持つクラスAの株式や優先権付き普通株

……どうも1と4が理解できん。全ての普通社債が確定利付きなわけなくない?経営悪化して暴落する可能性だってあるのにーわけわけめー。4だって意味不。クラスAってことは②なはずなのになんで①に含まれるの。

②は将来的には元本価値の変動が見込まれるものである。Aタイプは安全なインカムゲインを得ながら、転換権やその他優先権を行使してキャピタルゲインを得ることも可能。Bタイプは損失のリスクはあるが、リスク以上のキャピタルゲインのチャンスで補うことが出来る。
②のBタイプと、③の違いは2つ。

  • 一部の下位証券より実質的な優先権を持つため、ある程度の安全性の保証がある。
  • 利益のチャンスはあるが、論理的にまたは運がよければ普通株の投資で得られる大きな利益のチャンスに比べるとその利益の程度は限られる。

普通株の特徴を持つ証券は、それが「普通株」「優先株」、または「債券」の名称が付けられていようともすべてクラス③に分類される。200ドルの高値をつけた債券(値動きが普通株並)とか、参加的無担保社債とか。名称は社債ってついてるけど、実質的には普通株と同じ特徴を持っている。それから、上位証券だったはずなのに超安値がついちゃって、下位証券の実質的な持分がなくなったケース。名前は優先株ってついてても実質的には普通株と同じ扱いに。
上位証券の主な条件を書いている上、現在の価格水準(10ドルとか格安)から見た値上がり益はほぼ無限大。どう見てもハイリターンの特徴を持つ普通株

それぞれのクラスの境界
①と②の境界線は曖昧。投資化の個人的な判断次第でどちらにもなる。
例えば、本来は①に分類される投資適格な債券であっても、短期債だったりするとリスクやや高ってことで②になったり。

②と③の境界線も不明確。
当該企業の業績とその証券に対する投資化の見方によって決まる。優先株の額面超過分(ここも意味不明)に何らかの実質的な価値があれば、普通株っぽい馬鹿安上位証券も、クラス②に入る。

証券分析の基準は、その名称にあるのではなく、その証券特有の内容と投資家の見方という実際上の基準に基づくべきである。
つまり、将来的に得ることができるもの、またはその証券を購入した時点で得られる可能性のあるものを基準にすべきだと言うことである。