1−1 証券分析の役割と本質的価値

証券分析の役割と概念、その対象とか

  • 証券分析
    • 証券分析の役割   記述的、選択的、批判的な役割の3つに大別される。
      • 記述的……情報提供。とある問題に関する重要な事実を列挙し、説明する。さらに、特定証券の利点と欠点の評価をしたり、同業他社の業績と比較検討したりして、投資家投機家に判断材料(情報)を提供する。
      • 選択的……銘柄選択。「記述的な役割」よりさらに深く分析。独自の判断データを提供する。買い、売り、保有または別の証券に乗り換えるべきといった判断に関する具体的なアドバイスをする。
      • 批判的……落とし穴探し。証券保有者が大損するような落とし穴がないかどうか批判的に分析する。株式保有者の利益を守る重要な役割。企業の会計処理の問題点は勿論、証券保有者に大きな影響を及ぼす企業の経営方針(資本更正、配当政策、将来の発展の可能性、経営方針、不採算部門の再建・整理など)に常に目を光らせる。
    • 証券分析の性質・特徴
      • 投機において証券分析は「補助的なもの」でしかない。投機の場合は運がなければ分析力も役に立たなくなってしまうため。
    • 証券分析を妨げる3つの障害
      • 不十分または不正確なデータ(事実の隠蔽が成されたデータを見逃し間違った結論を出すことも)
      • 将来の不確実さ(将来の変化は予測不能。証券分析は将来の可能性の手掛かり程度のものであるという前提が揺らぐと、分析結果もより不確実なものになる)
      • 不合理な市場の動き(相場の値動きは人の心理による。自律的に修正される傾向があるとはいえ、時価は常に本来的な価値から乖離している)
  • 本質的価値
    • 証券の本質的価値とは
      • 恣意的な価格操作や市場の心理的な雰囲気などで形成された価格水準とは別に、その発行企業の資産、収益、配当、将来の業績見通しなどの事実によって裏付けられた本来的な価値。
    • 本質的価値と価格(本質的価値=正味資産?)
      • 昔は、本質的価値とは「簿価」とほぼ同じもので、その企業の正味資産(資産−負債?)を適正な価格で現したものと考えられていた。企業の平均的な収益力や市場価格は、正味資産の簿価をそのまま反映したものではないのに。
    • 本質的価値と「収益力」(本質的価値は収益力によって決まる?)
      • その後、証券の本質的価値とは企業の収益力によって決まる、という新しい考え方が主流になった。「収益力」という概念は企業の将来的な期待収益をあらわしている。「収益力」算出のための重要な手掛かりとして、過去の平均収益を計算したり、収益トレンド見たりしたけど無駄。こんなことしても得られる数字は、企業の将来的な期待収益なんて計れるわけない「偶然的」または「恣意的」なものにすぎない。そもそもの概念からして「収益力」や「本質的価値」なんて曖昧なものが明確な数字で表されるわけないし。
      • 証券分析と本質的価値
    • 証券分析の目的は、本質的価値を正確に求めることではない。証券分析にできることは、①ある証券の時価はその価値が保証され、購入することが正当化される水準として妥当なものか、②ある証券の本来的な価値は時価をかなり上回っているor下回っているか――などについてヒントを示すことだ。
    • 本質的価値という概念を証券分析に当てはめる場合、柔軟に適用しなければならない。本質的価値なんて曖昧なもので、状況によって変化する「大まかな価値の範囲」でしかなんだから。こんな曖昧なものであっても、本質的価値から何らかの結論、投資判断を引き出すことは可能だろうけど。